大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所金沢支部 昭和26年(う)545号 判決 1952年3月10日

控訴人 被告人 吉本花子こと成任善

弁護人 永井弘毅

検察官 小西茂関与

主文

本件控訴を棄却する。

理由

弁護人永井弘毅の控訴趣意は昭和二十六年十月十六日付控訴趣意書記載の通りであるから此処にこれを引用する。

論旨第一点について

記録に基いて原審の訴訟手続を調査するに、原審は昭和二十六年七月三十一日本件起訴状を受理し、同年八月一日公判期日を同月九日午前九時と指定し、該期日に被告人が出頭しなかつたため、当日、さらに公判期日を同月十七日午前九時と指定して閉廷し、同月十七日被告人に対し弁護人の選任に関する事項の通知及び照会をなし、同月其の回答を得た上、被告人のため弁護士田中豊を弁護人として選任し、同日被告人並に右国選弁護人の出頭を得て開廷の上審理を遂げ、即日判決の言渡をなしたものであることが明かである。弁護人は、「原審は、開廷直前に国選弁護人を選任し、該弁護人に対し、訴訟準備の時間的余裕を与へることなく即日、其の審理を遂げて判決の言渡をしたものであつて、斯る措置は刑事訴訟法第二百七十二条刑事訴訟規則第百七十七条第百七十八条等の趣旨に違背するものである。」旨、主張するけれども、しかしながら、原審第二回公判調書の記載を検討すれば、弁護人は、昭和二十六年八月十七日の公判に於て、原審の斯る訴訟手続に関し、何等の異議を留保することなく、被告人と共に当該期日に出頭し、閉廷に至るまで終始審理に参与し、弁護人のため訴訟準備の時間的余裕を与えられなかつたことにつき、被告人に於ても、弁護人に於ても、原審の措置を全く責問することなくして終つたものであることを認め得るのみならず、さらに該調書の記載によれば、被告人は本件公訴事実の全部を其の侭承認し、ただわづかに、諸般の情状を斟酌し、寛大な裁判あらんことを望んだに過ぎず、従つて、事案の比較的簡明な本件に於ける原審の前記の措置は、被告人の防禦権の行使に対し実質的に何らの不利益を及ぼすことがなかつたものであることをも肯認するに足る。そうして見れば本件の場合、敍上のような原審の措置は、被告人及び弁護人に於て、これに対する異議を留保しなかつた結果、其の違法が治癒せられるに至つたものと認めるを相当とすべく、仮に然らずとするも、本件に於て斯る訴訟手続の法令違背は判決に影響しなかつたものであることが明かであるから、いずれの観点よりするも、論旨は其の理由がない。

論旨第二点について

記録を精査し諸般の状況を斟酌して案ずるに、被告人に対する原審の量刑は相当である。所論の点につき十分なる検討を遂げ、其の結果を考慮に容れても、いまだもつて原審の科刑を変更すべきものと認めるに至らない。論旨は採用し難い。

よつて刑事訴訟法第三百九十六条に則り主文の通り判決する。

(裁判長判事 吉村周作 判事 小山市次 判事 沢田哲夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例